大阪市南部、若い女性たちの惨殺事件が続発する。
被害者たちは下腹部を切り裂かれ、その生殖器が持ち去られていた。
犯人は廃墟ビルの屋上で暮らす孤独な青年、誠(佐野和宏)。
彼は「菜穂子」と名づけられたマネキンを愛し「愛の結晶」が誕生することを夢想していた。
次々に若い女性を惨殺し、奪った生殖器を菜穂子に埋め込む。
やがて彼女に不思議な生命が宿りはじめ、様々な人間が、
誠と菜穂子が暮らす「魔境」=廃墟ビルへと引き込まれていく。
現実の街並みは、いつしか時間感覚を失い、傷痍軍人や浮浪者など、
敗戦直後を思わせるグロテスクなキャラクターが彷徨しはじめる。
純粋に二人だけの世界で生きていた幼く美しい一組の兄と妹(隈井士門、村田友紀子)。
遊びといえばケンパしかしらない。かれらもまた、菜穂子がいる廃墟へと導かれてゆく。
菜穂子と産まれてくる子供のために、誠は、小人症の兄妹(日野利彦、仲井まみ子)
ふたりきりで営まれる下水道清掃会社で働きはじめる。
福田の妹・夏子は誠に心ひかれてデートに誘うが、路上で暴漢に襲われ、無残にもレイプされてしまう。<
深い絶望は、自分の醜い火傷姿が男たちに愛されたことで癒されるが、
誠に、愛する「女」がいることを告白され、孤独と嫉妬に打ちひしがれる。
街をさまよい、やがで廃墟ビルへ…。
廃墟ビルの屋上。
幼い妹は菜穂子に「母」の面影を見る。
兄は、その姿に激しく「性」を感じる。
そのとき、廃墟ビルに引き込まれた人々に残酷な運命が訪れる……。
そして、1985年4月、クランクアップ。
1986年6月、3時間近いラッシュを見終えた本間明と浦田和治は頭をかかえていた。
本間は、映画では『東京戦争後秘話』、『戦場のメリークリスマス』、『東京裁判』等々の音響効果を担当し、
蜷川幸雄演出作品など多くの舞台でも優れた業績を果たし、音響効果の第一人者として知られている
浦田は『ゴッド・スピード・ユー・ブラックエンペラー』をはじめ多くの作品の録音を担当し、
『東京裁判』、『食卓のない家』などの録音技師・西崎英雄のチーフ・アシスタントとしても
活躍する第一戦のプロフェッショナルである。
しかし、オールアフレコを前提としたその長尺は、膨大な作業を要求していた。
限られた予算の中で、いかに音を創造するか…。
それは撮影現場の華やかさとは対極の、密室での時間との闘いを意味していた。
バンドの練習スタジオやビデオ・スタジオを利用したゲリラ的なアフレコを経て、
最終走者・編集の高島健一の登場である。
23歳で川島透監督作品『チンピラ』を編集し最年少デビューを果たした彼は、
松井の最大の理解者となっていた。
リズミックなカットワークを捨て、重く長いラッシュを切り刻むことなく、2時間30分の定尺へと仕上げていった。
東宝録音センターでの効果音造りがはじまる。
撮影現場に登場した数多くの小道具が再生され、大スタジオを占拠した。
それはあたかもゴミの山を思わせるものだった。
しかし、本間は目を細めていた。スタジオの中で古タイヤが転がり、機械仕掛けの鳩が飛ぶ…。
スクリーンに展開する無言の映像に音が蘇えってゆく。
8月4日、ダビング開始。4度目の8月4日である。
東京テレビセンター・407スタジオでは、「天空の城・ラピュタ」の録音技師・井上秀司が浦田のバックアップにまわっていた。
35mmブロー・アップを想定し、ドルビーNR、マルチ・オーディオを使った、最新の本格的な録音作業が展開する。
8月7日、午前6時、最終の17ロール目の作業が完了する。
しかし、浦田と松井良彦監督が、ほぼ同時にNGを宣告。エンディン・グテーマに納得がゆかないという。
8月8日、17ロールのリテイク完了。
8月9日、現像所イマジカの特殊合成課の柳島範男は頭を抱えていた。
オープニングの工学的なズームバックの処理にOKが出ない。
「こんな作業は50年に一度あるかないか…」柳島声は苦渋に満ちていた。
すでにテストを繰り返し、3回目の試写にもかかわらずOKが出ない。
「もう一度だけ…」松井と高島の熱意に柳島は首を縦にふった。
8月15日、0号完成。
9月1日、初号完成。
(C) 1988-2007 松井良彦 & 安岡フィルムズ